平成12年3月
東京都教育委員会
本書は、平成12年3月、東京都の聴覚障害教育におけるコミュニケーション指導等の望ましい在り方について東京都聴覚障害教育改革推進本部専門部会長に報告したものを、関係各位のご参考にするため発行するものです。
広くご活用いただければ幸いです。
T はじめに
1、コミュニケーション指導等の研究委員会設置について
2、設置の趣旨について
U 現 状
1、我が国における聴覚障害教育の指導法の変遷
2、聴覚障害教育を取り巻く社会の変化とコミュニケーション活動
3、幼児・児童・生徒数の減少及び障害の多向様化傾向
4、都立ろう学校及び難聴学級の教員の経験年数
5、都立ろう学校の教育におけるコミュニケーション指導
6、難聴学級の教育におけるコミュニケーョン指導
7、卒業生等の成人聴覚障害者のコミュニケーションの現状
V 課 題
1、聴覚障害教育におけるコミュニケーション指導の背景
2、都立ろう学校におけるコミュニケーション指導上の課題
3、難聴学級におけるコミュニケーション指導上の課題
4、教員研修の充実
5、家庭におけるコミュニケーション活動の重要性
6、コミュニケーション手段の選択の課題
7、「自立活動」の指導内容・方法の確立とコミュニケーション活動
8、主体性の育成
9、個に応じた指導と集団活動への配慮
10、社会性や道徳性などの育成
11、職業教育におけるコミュニケーション指導上の配慮
12、交流教育の活性化の必要性
13、重複障害教育の充実
14、障害の認識の指導
15、保護者との連携の必要性
16、ろう学校における聴覚障害のある教員の果たす役割
17、都立ろう学校及び難聴学級の地域における教育相談センターとしての役割
W 改善策
1、都立ろう学校及び難聴学級における改善点
2、都立ろう学校及び難聴学級における指導事項
X 残された課題の解決に向けて
○ 資料
・心身障害学級(難聴学級)の状況 年度別推移
・都立ろう学校の状況 年度別推移
・聾教育教諭普通免許状の取得状況
・用語解説
「コミュニケーション指導等の研究委員会(以下「委員会」という)」は、東京都聴覚障 害教育改革推進本部専門委員会設置要項第2条第2項に基づいて、平成10年5月1日に設置された。
委員会は、平成10年度から2年間、先に出された東京都聴覚障害教育検討委員会の答申「東京都の聴覚障害教育の今後の在り方について」(平成9年12月)の内容を踏まえ、特に、東京都の聴覚障害教育におけるコミュニケーション指導等の望ましい在り方の検討を行った。
委員会は、平成10年度及び同11年度に、12回の委員会を開催した。そこで明らかになった聴覚障害教育の現状と課題及び改善策について取りまとめ、ここにそれらの結果を東京都聴覚障害教育改革推進本部専門部会長に報告する。
委員は、14名(ろう学校及び難聴・言語障害学級の教育関係者、保護者、障害者団体、学識経験者)からなり、事務局は、東京都教育庁指導部心身障害教育指導課及び学務部義務教育心身障害教育課が当たった。
聴覚障害教育におけるコミュニケーション指導等の実践に当たっては、文部省の「聴覚障 害児のコミュニケーション手段に関する調査研究協力者会議報告」(平成5年3月)及び「聴覚障害教育の手引一多様なコミュニケーション手段とそれを活用した指導一」(平成7年・文部省)を参考にすることが必要であるが、これに加えて、東京都における聴覚障害教育の 実態に即した指導の在り方を追求することが重要であり、このため本委員会が設置された。
委員会の設置の趣旨は、次の通りである。
「聴覚障害教育においては、全人的育成を図るという基本的な考えに立ち、個々の幼児・児童・生徒の障害の状態や発達段階に即して、多様なコミュニケーション手段を活用して、指導の改善を図ることが求められている。このため、幼児・児童・生徒の障害の状況を把握し、一人一人に応じたコミュニケーション手段を活用した話し言葉の習得を目指す指導の在り方を検討する。また、成人聴覚障害者、特に生徒の卒業後のコミュニケーションの実情を踏まえるとともに、保護者への支援も含めて、発達段階に即したコミュニケーション活動の活発化や障害の多様化傾向に対応した指導の在り方などについて討議を深め、幼児・児童・生徒の社会参加・自立を目指したコミュニケーション指導等の望ましい在り方を追求する。」
長い間、世界特に米国の聴覚障害教育の変遷は、我が国の聴覚障害教育に大きな影響を与えてきた。米国の聴覚障害教育を概括すれば、口話法1)から聴覚口話法1)ヘ、さらに、トータル・コミュニケーション2)に移行し、現在は、少数ながらバイリンガル教育3)を実施する学校もあると聞く。バイリンガル教育については、北欧において活発に行われているとの情報があるが、この背景には手話がきちんとした言語として認められたという経緯がある。我が国において、このバイリンガル教育への理解をより正確により深めるためには、手話言語を通して、どのようにその国の言語を獲得したのか、どのようにして教科学習のレベルを上げたのかの実態を明らかにする必要がある。また、この方法が、どのような社会的条件の下に行われたか、どのような困難点をもっているのか、あるいは失敗例などの事例も調査し、我が国において実施する場合の問題点や方策などについて検討していく必要がある。そのため、今後とも積極的な情報収集が必要である。
我が国における聴覚障害教育の指導法の変遷は、明治11年の創始以来、手勢法4)から口話法を経て、聴覚口話法に移行してきた。この間、聾口話普及会による活動や聴覚活用の教育の導入など、指導法に関する多くの変容を指摘することができる。1968年に栃木県立聾学校に同時法5)が導入され、現在では、その他にも、多くの実践的な試みが行われている。
今日の日本における聴覚障害教育は、一人一人の幼児・児童・生徒の状態に応じた指導法と円滑なコミュニケーション環境の確立が望まれている。
近年の聴覚補償技術の進歩は著しい。各種の補聴器の開発やコンピュータを用いた発音・発語訓練システムや集団補聴器システムなどの機器の開発により、教育的環境は年々改善されてきている。
都立ろう学校においては、全校に相互通話式集団補聴システムが導入され、幼児・児童・生徒の保有する聴力を活用する教育環境がより充実してきた。また、いくつかのろう学校や難聴学級で学ぶ児童・生徒の中には、人工内耳の手術を受けた者もいるようになり、医療機関とろう学校や難聴学級との一層の連携が必要となってきている。
その一方で、アメリカのトータル・コミュニケーション等の実践が、我が国に紹介されて以来聴覚口話法だけに限定することなく、それ以外の指導法を模索する学校も増えてきた。そのような中で、聴覚障害教育研究者の一部や聴覚障害者の団体等からは、「ろう学校に手話6)を」という運動も起こってきた。さらに、文部省が、手話を含めたコミュニケーション手段に対する見解を「聴覚障害児のコミュニケーション手段に関する調査研究協力者会議報告」で示したことにより、手話を取り入れた指導への関心がより高いものになってきた。
最近では、北欧や米国の一部で行われているバイリンガル教育の紹介、ノーマライゼーシ ョン7)やバリアフリー8)の考え方の普及に伴い、個々の幼児・児童・生徒の障害の状態や発達段階に応じた様々なコミュニケーション手段を活用した指導の在り方が求められるようになった。また、成人聴覚障害者を中心とした障害認識や受容についての問題提起、手話の普及啓発によって、手話通訳派遣事業の充実など、社会生活を営む上で手話が重要なファクターとなってきた。これに対して、学校教育における様々なコミュニケーションメディアに関する研究と試行が不十分であるという指摘がされている。
都立ろう学校の幼児・児童・生徒数は、昭和34年度の1,521人をピークとして、以後、減少傾向にあり、平成11年度には625人(平成11年5月1日現在)となっている。小学部の児童数に例をとれば、昭和33年にピークとなり831人であったが、以後減少し続け、平成11年度は201人で、約1/4となっている。幼児・児童・生徒数の減少に伴い、二つ以上の障害を併せ有する幼児・児童・生徒の割合は増加している。
小学校における難聴学級に通級する児童数は、昭和46年から急激に増え、昭和59年には605人に達し、その後、急激に減少し、平成11年度は296人となっている。中学校における難聴学級に通級する生徒数は、昭和58年度から同60年度にかけて、80人台を維持していたが、以後、一時減少領向をたどり、その後増加し、平成9年度には99人になった。平成11年度は73人であり、再度減少傾向にある。
都立ろう学校の幼児・児童・生徒難聴学級の児童・生徒数の減少傾向は、一般的な少子化傾向に加えて、通常の学級に在籍し障害のない幼児・児童・生徒とともに学ばせ、早期から集団生活を経験させ、社会性を身に付けさせたいという保護者の教育観の変化が、大きく影響していると考えられる。
また、従前のろう学校が、聴覚口話法による指導が中心で、手話・指文字9)を取り入れた指導に消極的だったことや、ろう学校での教科学習の進度が結果として遅れていることへの批判などが、通常の学校を選択する傾向を促進したとも考えられる。
保護者の教育に対する考え方も多様化しており、家庭の教育力によっても、幼児・児童・生徒の言語力等に大きく差が生じている。幼稚園、小・中学校の通常の学級に在籍し、聴覚・言語に関する専門的指導を受けずに都立ろう学校に転入学してくる児童・生徒の課題も大きい。
平成11年度における都立ろう学校に勤務する教員の聴覚障害教育の経験年数は、平均8.6年である。都立ろう学校においては、年々、聴覚障害教育の経験年数の浅い教員が増加している。また、平成10年度の都立ろう学校における聾学校教諭普通免許状の所有率は学校・学部によって差はあるものの平均32%である。同年の東京都難聴学級教員の聾学校教諭普通免許状の所有率は44%であり、ろう学校の教員と比較すれば高いといえる。
ろう学校や難聴学級の教員の中には、コミュニケーション手段等についての知識や指導技術が不十分な教員が存在するという厳しい指摘があり、聴覚障害教育に関する専門性のある教員の確保を要望する声が大きい。また、「聴覚障害のある教員が増えることによって、コミュニケーションが円滑に進み、教科指導や生活指導、進路指導の充実が図られる」という成人聴覚障害者等からの意見もある。
都立ろう学校では、都立盲・ろう・養護学校初任者研修年間研修計画に沿って、校内における研修を年間300時間程度計画し、これに他校種からの転任者も加えて、教科指導やコミュニケーション手段等に関する研修を行っている。さらに、聾学校教諭普通免許状を所有していない教員に対しては、夏季休業中に実施される東京都免許法認定講習を受講できるよう校内体制を整えている。また、都立教育研究所においては「聴覚に障害のある児童・生徒のコミュニケーション能力を育てる指導」についての専門研修を行っている。
0歳から2歳までの乳幼児に対する教育相談活動は、幼稚部の設置されている都立ろう学校並びに福祉関係の難聴幼児通園施設で行われている。ここでのコミュニケーション指導は、聴覚障害の発見に伴って、直ちに補聴器の装用を行うのが一般的である。
これまでの聴覚口話法の指導においても、乳幼児のコミュニケーション手段として、補聴器を通しての語り掛けや口声模倣、身振り、その他の非言語的手段を多用することが奨励されていた。あらゆる手段を用いて、保護者と乳幼児の日常生活におけるコミュニケーションを成立させることが重要だからである。
コミュニケーション指導の具体的な指導内容・方法に関しては、乳幼児が教育の対象であるため、保護者との話し合いを通して、乳幼児の育て方や話し掛け方などについての援助が中心となっている。
早期の段階で、成人聴覚障害者との交流の機会を設けたり、手話教室を開催したりして保護者の聴覚障害に対する認識を深める実践を行っている学校もある。
幼稚部のコミュニケーション指導に際しては、様々な遊びの体験及び再現活動を土台として、聴覚活用を重要視しながら、場面や幼児の心の動きに合わせた話し掛けをするなどの活動を推進したり、必要に応じて言語指導や聴覚活用の指導が行われている。
また、学校によっては、キュード・スピーチ10)を導入したり、指文字や幼児向きの手話を考案して用いたりもしている。
4〜5歳児になると、幼児同士のコミュニケーション活動が活発になる。聴覚口話法の場合は、教員や保護者が子どもとの間に入って仲介する場面がよくあるが、子ども同士のコミュニケーション活動を活発にするため、聴覚口話による指導の充実とともに共通のコミュニケーション手段として手話や指文字を使用している学校もある。
小学部は、基礎的な教科指導の導入の時期にあることから、これを支えるコミュニケーション活動の活発化が図られている。いずれの都立ろう学校でも、従来から聴覚活用を基本にしながら、聴覚口話法を主とした指導を行い、聴覚活用、発音・発語、読話等の指導の充実に努めてきた。しかし、近年は、児童・生徒の障害の多様化領向に伴って、個に応じた視覚的コミュニケーション活動を図っている学校もある。また、手話に重点をおいた指導法を取り入れている学校もある。どちらの場合も、児童・生徒自身や児童・生徒を取り巻く環境のもつ様々な条件を考慮しながら、最も適した方法を用いるための工夫をしている。中学部では、手話や指文字を使用する頻度は高くなっている。
児童・生徒が、日常的に手話を使用しているろう学校では、学習をより理解させるための方法として、手話を用いて授業を行った方が、児童・生徒に鮮明なイメージを喚起する のに有効であるという実践的報告もある。こうした、授業展開に関するコミュニケーション手段についての検討が必要であるという声も多い。
幼稚部から積み上げたコミュニケーション活動の成果や、卒業生も含めた聴覚障害者の一般社会でのコミュニケーション活動上の課題等を踏まえ、特に、「自立活動」の望ましい在り方を追究している学校もある。また、手話や指文字を使用した手段が比較的多く使用され、コミュニケーション活動の円滑化が図られている学校もある。
高等部に在籍する生徒は、入学前の教育歴が様々であるため、入学当初から全員が手話を習得しているわけではない。しかし、高等部での生活が進むに連れ、手話が共通のコミュニケーションとなってくる。こうした生徒の実態に応じて、高等部を担当する教員は、手話コミュニケーションの技能の向上を図り、生徒のよき相談相手として生徒の内面の理解に努めることが期待されている。
重度・重複学級の教育は、昭和37年度から開始され、個々の幼児・児童・生徒の障害の状態や能力・特性等に応じた指導を行っている。対人関係を育てるためのコミュニケーションの指導や知的障害にかかわる基本的生活習慣及び社会生活に必要な知識・技能・態度の習得を目指す指導を中心に教育が行われている。
小学校における難聴学級においては、地域の通常の学校で学ばせたいという保護者の意識が強いため、校外通級の児童が多い。
中学校では、教科の学習内容が多くなるにしたがって、言語力や学力の差が広がってきている。個々の障害に応じた指導や学力補充の時間を多く必要としているため、中学校難聴学級は、小学校に比べ、校内通級の生徒が多い。
難聴学級に通級する児童・生徒は、制度的には、比較的、聴覚の障害が軽い場合を想定していることから、特に、補聴器の適合及びその効果的な使用や個々の児童・生徒の障害の状 態に応じたコミュニケーション指導等が行われている。
聴覚障害が軽度であっても、集団場面における補聴器のみでの会話は困難なことが多い。このことに対する児童・生徒へのサポートは、あまりなされていない現状がある。しかし、聴覚に障害にある生徒とない生徒の間に手話、指文字が使われており、聴覚に障害のある生 徒に対して、聴覚に障害のない生徒が、授業内容の通訳をするなどの例が見られる中学校も ある。
現在、「養成」「派遣」「設置」を三本柱とした手話通訳事業が充実してきており、手話は、聴覚障害者の社会参加に必要なものになっている。また、聴覚障害者を主役とした漫画やテレビドラマ、映画、物語、さらに、手話ニュースなどの登場は、社会への手話の理解と普及をより一層高めている。
手話の普及で、職場や地域に手話サークルができるなど、聴覚に障害のある人とない人の相互交流も盛んに行われるようになり、手話を通した聴覚障害者の社会参加環境は充実してきている。
一般社会の人々が、聴覚障害に対する理解が十分でない場合には、心理的な問題も加わり、聴覚障害者が、自分の意思を周囲の人々に、どのように伝えたらよいのか分からないため、折角の意思疎通の機会を逸してしまうことなどが成人聴覚障害者団体の調査等によって判明している。その結果、聴覚障害者の積極的な社会参加がなかなか進まなかったとも考えられる。
なお、障害があっても、なくても、その人間としての尊厳は変わりないという人権尊重の考え方が社会的に広まってきている。これは聴覚障害者についていえば、「手話をコミュニケーション言語とする聴覚障害者の存在もまるごと肯定する」ということである。
今後とも、ろう学校及び難聴学級は、聴覚障害教育の充実とともに、成人聴覚障害者団体とも協力し合って、一般社会の人々への聴覚障害に対する正しい理解を図ることが必要である。
障害があっても、なくても、人間にとってのコミュニケーションの発達の筋道は、基本的に同じである。ただ、聴覚に障害があると、使用するコミュニケーション手段や聴覚活用発音指導等、特別の指導の方法が必要である。聴覚障害児にとってのコミュニケーション指導を、発達段階を踏まえて、乳幼児期からいかに展開するかが今日的課題である。
乳児は、生後、保護者の庇護のもとに成長し、1年経つか経たないうちに、自分の意思で保護者を動かすようになる。これをコミュニケーションの原形とみれば、乳児は、この段階から、表情や泣き声など主体的なシグナルを発することによって、自分以外の人間を自分の意思で動かしているということになる。また、聴覚に障害のある乳児の場合、指差しや身振りなど視覚的なコミュニケーション手段を巧みに使って、保護者と意思疎通を行うことが知られている。
さらに、幼児には質問期と呼ばれる時期がある。あらゆる外界事象が未知なものばかりであり、その知的好奇心をそそる事象について、盛んに質問するようになる。この時期は、1歳半ごろに表れはじめ、3〜4歳ごろが最も著しく、6歳ごろには、その頂点に達する。初めは、「なに」という形で表れ、3歳前後から「なぜ」という質問の形に移行するといわれている。幼児の質問は、実に様々で、納得の仕方にも個人差がある。そのため、大人は、幼児の年齢、理解力、質問の動機や態度などを考慮し、最も適切な応答をすることが必要である。
言葉の創造期については、2歳以後、羅列文が無くなり、従属文が発達し、時間や理由に関する質問が出るようになり、言語の創造的使用(合成語11)、転成語12)など)が多くなるといわれる。例えば、知っている言葉と言葉をつなぎ合わせて自己の欲求に合致した表現を作り出してしまうことなどがあるが、このような心と連動した言葉の獲得によって、コミュニケーション活動が成立する。
上記の質問期や言葉の創造期において、注目すべきは、いずれの場合も、幼児の心の中に、質問をしなければならない感情の高まりが存在しているということである。つまり、幼児の心の中に、不思議さや珍しさ、驚きなどがあり、質問は、その心の作用によって主体的に行われるということである。
言葉の獲得がそうであるように、コミュニケーション活動も「心と言葉の連動」が重要である。「心と言葉の連動」とは、「心が動いたら言葉で表現され、言葉によって心が動く」ことを指している。したがって、幼児・児童・生徒のニーズや興味・関心などの心の動きに応じ、適切な言葉を投げ掛け、受容・表出を促す指導を行ったりすることが重要である。
言葉は、本来、教えられるものではなく、コミュニケーション活動の中において育つものである。コミュニケーション及び言語活動に不可欠な意味理解については、幼児・児童・生徒と保護者及び教員等と共有される生活体験の中で形成される。しかも、それは幼児・児童・生徒の心を揺さぶる生き生きとした体験の中で育っていくものである。このため幼児・児童・生徒の側に立った今日的な指導法の改善が求められる。
乳幼児のコミュニケーションは、保護者との心の触れ合い、物のやりとりなどによって広がっていく。このことにより経験が蓄えられ、心身の機能が発達していく。これは概ね乳幼児期においては、次のような経緯をたどるものと考えられる。
@ 生活や遊びの様々な具体的な活動の中で、コミュニケーションの相手の存在に気付き相手の反応に興味をもち、相手の意図を理解するようになる。
A 大人の「察し」によって、意味付けられることを通して、次第にしっかりとした反応、意図的な表出へと変化していく。
C 以上のように、主として身振り、表情、声、指差し、事物の提示などの手段を使いながら、具体的な場面の中で、大人と何らかの意図を伴ったコミュニケーション活動を開始する。
また、学校での友達関係などの人間関係が広がると、次のような配慮を必要とする。
@家庭生活や学校での様々な場面における活動を通して、対話をする機会を増やす。
A乳幼児の不完全な表現を、乳幼児のとらえやすい言葉で表現し、口声及び手話模倣により疑似的対話を成立するようにして本来の会話に近付ける。
B文の長さや語調の広がりなどの日本語表現を個々の乳幼児の発達に応じて向上するように努め、言葉によるやり取りができるような言語能力の習得を目指す。
C対話ができるようになったら、内容の伝達に重点を置くようにして、人の話を理解し、話題に沿って、話ができるように支援していく。
D言葉とイメージの相互作用が頻繁に起こり、教科指導に移行できる言語機能が形成されていくようにする。
このように、発達段階を踏まえた対人的コミュニケーションの指導の工夫が重要である。
都立ろう学校においては、心理学的あるいは生理学的知見を基に、具体的な指導内容・ 方法を模索しながら、0歳から2歳までの乳幼児の指導が行われている。しかしながら、この時期の指導は、3歳以上の幼稚部の教育の方法をそのまま乳幼児の指導に適用するものであってはならない。0歳から2歳までの乳幼児の心理や生理及び発達段階に即するとともに、障害の状態に応じた種々の困難の改善にふさわしい方法を開発することが大切である。特に、コミュニケーション活動という面から考えると、乳幼児が、日常生活において、保護者、特に母親との接触が大部分を占めることから、母親を通して乳幼児にかかわっていく指導をどのように展開するか、その支援の在り方の究明が重要課題である。
幼稚部においても、同様なことがいえる。特に、主体的な言語獲得のための指導法の確立が必要である。いかにして、心と連動した言葉を養うかが重要な課題である。
都立ろう学校は、早期からの教育相談等を含めて、聴覚障害に関する教育相談のセンタ一的役割を果たすことも重要である。このために、乳幼児の教育を担当する教員に対して、可能な限り研修の機会を確保し、コミュニケーション理論とともに、医学や心理学、乳幼児の発達や保育に関する内容の研修ができるようにするべきである。また、乳幼児に対する教育相談の充実を図るため、乳幼児の心理、生理、発達に即応した指導法の確立が課題として挙げられる。さらには、医療機関や保健所等の関連機関と、より一層の連携を深めるための方策を講じることが必要である。ろう学校と難聴学級等の連携も課題である。
小学部以上において、充実した教科の学習を展開するためには、その前提として、教科の学習を支える日常生活におけるコミュニケーション活動の活発化を通した話し言葉の獲得が重要である。学年が進めば、それに相応するコミュニケーション活動とその内容を伴うことが理想であるが、実際には、これらの実現は困難な場合が多い。
これまでのろう教育においては、教科の学習においても言葉の指導を重視してきた。しかし、単語や文の暗記に時間をかけすぎ、教科の学習において本来重視すべき、考えたり、調べたり、自分の意見をまとめたりする指導が十分にできなかったという反省もある。そこで、教科の学習における言葉の指導の在り方を再検討することが必要である。子どもの実態に応じて、複数のコミュニケーションメディアを併用した授業展開を工夫するなど教科の学習の成果を高めるための方法も研究・開発することが重要である。
コミュニケーション指導に当たっては、次の項目に示す内容を参考にして、充実したコミュニケーション活動ができるような研究の推進に努めることが必要である。
@ まず、「伝えたい」「分かり合いたい」という心情の育成が大切である。これは、児童・生徒の興味・関心や必要感などの心の動きと連動したコミュニケーション指導が必要であることを示しており、換言すれば、児童・生徒の内面を重視した指導が不可欠であると考えることができる。
A 乳幼児の発達に即して、家庭におけるコミュニケーション環境を整えることや保護者との信頼関係を密にすることなどは、極めて重要なことである。このこといかんによっては、成人した後にまで、その影響が残る可能性があることが多くの研究者によって指摘されている。保護者との連携の中で、十分に検討することが大切である。
B ろう学校の教育における各コミュニケーション手段についての機能の研究が必要である。例えば、読話は、話し手の音声言語を視覚的に受容する活動であるため、話し手が特別なコミュニケーション手段を必要としないという利点がある。しかし、伝達に際して、あいまい性が強いことや、集中力が必要であるため、長時間の読話は疲労が重なり、児童・生徒に心理的なプレッシャーをかけやすいなどの傾向が指摘されている。
今後、読話に限らず、それぞれのコミュニケーション手段の利点と課題を明確にするとともに、それぞれの手段が、どのような働きをもち、どのようにすれば、効果的な指導を展開することができるかの検討が必要である。
C 社会参加・自立を目指したコミュニケーション指導等の開発・研究が必要である。コ ミュニケーション活動の活発化や言語の習得及び言語概念の形成の課題は、学校教育のみでは不十分になりやすい。したがって、円滑なコミュニケーション活動や言語の習得は、家庭における日常の生活とかかわっていることを深く銘記し、保護者の支援をはじめ、それぞれの教員のコミュニケーション指導等の研究の深まりに期待しなければならない。なお、これからは、都立ろう学校が、聴覚に障害のある幼児・児童・生徒や成人聴覚障害者のコミュニケーション方法に関する情報の発信源となることが望まれる。
D 集団活動におけるコミュニケーション手段への配慮が必要である。例えば、入学式や卒業式などで、どのようにしたら、円滑なコミュニケーション活動が可能になるかを検討し、適切な対応の方法を明らかにする努力が必要である。
通級制を実施している東京都の難聴学級は、軽度の難聴児の通常の学級での学習や集団活動がスムーズに行われるように支援することが重要な課題である。
最近、特に、目立つ傾向としては、障害が比較的重度な児童・生徒が通級してくるケースが多くなっていることである。したがって、このような傾向に対する難聴学級の望ましい在り方の追究が課題であると同時に、コミュニケーション指導においても、難聴学級の担当教員が、都立ろう学校と緊密な連携を図るとともに、必要に応じて、従来からの聴覚障害教育 における指導法などの技術を身に付ける努力が必要である。
通常の学級における難聴児は、たとえ聴力の損失が軽く、補聴器を用いれば対話が不自由でない場合であっても、授業や集団活動におけるコミュニケーション上の困難点は多い。しかし、現在、こうした難聴児の困難点に対する制度的な支援は、ほとんどなされていないように思われる。したがって、聴覚に障害がある児童・生徒が在籍する通常の学級における学習に対して特別な配慮が必要である。通級指導担任によるティームティーチング等、指導の形態の工夫などが求められる。また、場合によっては、通常の学級の教員や児童・生徒及びその保護者に対して手話や指文字を含めたコミュニケーション手段の技能を高めるための支援を行う必要がある。
難聴学級の指導においては、1対1の指導が多くなりがちである。そこで、常にコミュニケーション活動の活発化を念頭に置き、個々の児童・生徒の障害の状態に応じた指導法の研究や、必要に応じて、適切な集団活動が可能になるような配慮が必要である。
難聴児の集団活動に際しては、その児童・生徒の障害の状態に即したコミュニケーション手段の選択に配慮することが必要である。
聴覚障害教育に携わる教員のモラールの高揚や、個に応じた指導の具体的な方法などの研修が大切である。
教員研修は、初任者研修や専門研修、授業研究会、コミュニケーション手段への理解を図る研修、学校の実情に即して、各種のコミュニケーション手段の技能の向上を目指す研修、手話の実技研修などが考えられる。
コミュニケーション手段としては、現在、読話、発音・発語、聴覚活用、キュードスピーチ、手話、指文字、文字等が挙げられる。これらの手段の機能は、それぞれ異なっているため、固有の伝達機能についての理解を図るための特別な研修が必要である。また、校内研修を一層充実させ、多様なコミュニケーション技術の習得に努めることも大切である。
授業に際して、手話を使用するかしないかは、個々の幼児・児童・生徒の障害の状態や学習内容等を勘案して判断することが大切である。手話が必要な幼児・児童・生徒には、正しい手話を用いて指導する必要がある。また、聴覚障害のある教員や保護者、卒業生等との会話には手話を使用した方が効率的、効果的である。
したがって、多様な幼児・児童・生徒の実態を踏まえ、複数のコミュニケーション手段についての教員研修計画を立てることが大切である。その際、必要に応じて、成人聴覚障害者を講師等に招聘するなどして、より一層充実した研修ができるようにすることが重要である。
コミュニケーション活動や言語の習得等の指導は、学校教育のみでは成立し難い。言語習得や言語概念の形成等の課題は、家庭生活全般と深くかかわっているからである。したがって、家庭における指導の在り方について、十分な支援を行うことが重要である。聴覚障害のある幼児・児童・生徒が、常に、家族同士の話し合いに参加できるようにしたり、幼児・児童・生徒の疑問や質問に対して、丁寧に応答するなどの配慮が大切である。テレビなどの視聴に関しても、可能な限り、事前もしくは視聴時あるいは事後において、その内容について 話し合い、理解を深めるように努めることが必要である。
そのためには、家族が幼児・児童・生徒が主として用いているコミュニケーション手段に習熟し、幼児・児童・生徒がいるときには、聴こえる者同士でも、そのコミュニケーション 手段を使用するなどの配慮を行うとともに、常に、幼児・児童・生徒が家族の一員として、会話に参加し得る状況を作り出すことが大切である。
日本語等の習得のためのコミュニケーション手段の選択に際しては、それぞれの幼児・児童・生徒にとっての発達段階におけるコミュニケーション上の発達課題を考慮しなければならない。
例えば、乳児期においては、保護者との心理的な絆が強まり、日常生活にかかわる意思疎通が成立し、聴覚活用の可能性を最大限引き出すようなコミュニケーション手段として、聴覚音声及び身振り、指さしなどの併用が適している場合が多い。
幼児期後半から、学童期前半にかけては、友達同士の活発なコミュニケーションの成立が可能となるコミュニケーション手段の選択が必要である。また、この頃には、それぞれの幼児・児童にとって、最も使いやすいコミュニケーション手段が特定されてくるとともに、相手に応じて、コミュニケーション手段を使い分けることも学習し始めると考えられる。
学童期後半から青年前期にかけては、相手や場所によって、使用するコミュニケーション手段を切り替えること、ファックス、電子メール、テレビ字幕などの様々な文字通信・文字情報の使用に習熟することが必要である。
平成11年3月に告示された盲学校、聾学校及び養護学校の幼稚部教育要領、小・中学部 及び高等部の学習指導要領の改訂において、これまでの「養護・訓練」は、「自立活動」と 名称が変更されることとなった。「自立活動」の指導内容・方法を考える場合、「養護・訓 練」として積み上げてきたこれまでの実績を生かしながら推進しなければならない。
幼稚部や小学部における「自立活動」については、例えば、コミュニケーション活動や話し言葉の改善を図ることはもちろんのこと、他人の立場や気持ちの理解ができるような心情の育成を図ったり、社会常識を身に付けたりすることなどの指導上の工夫が必要である。また、「自立活動」が、教科指導を支える指導領域としての役割を果たすことを意識した実践も大切である。
中・高等部の「自立活動」の指導内容・方法については、卒業後の生徒の実情を参考にすることが重要である。特に、就業上の因難点や企業側からの聴覚障害教育への要望などの情報を教育活動に生かそうとする努力が大切である。
企業等において、確実な情報の伝達を必要とする場合には、書き言葉を使うのが一般的である。そのため、聴覚障害教育に対して、文章力の向上を図ってほしいという要望が強い。また、主体性を養ってほしい、社会性を身に付けてほしいというような要望も比較的多い。 さらに、8時間労働に耐える持続耐性を付けてほしいというような要望もある。コミュニケーションが円滑にできにくいために結果的に「自分の考え方に固執している」とか「協調性がない」とみられたりする場合もある。
いずれの企業においても、基本的には、円滑なコミュニケーションを望んでおり、これら の内容を吟味し、都立ろう学校においても、難聴学級においても、今後、これらの課題を、どのように聴覚障害教育に取り入れ、どのように指導の展開を図ったらよいかという課題解 決に努めるべきである。この場合、指導の基本としては、自他の意見の違いを話し合うこと によって解決していく態度・技能の育成が重要である。話し合いに用いるコミュニケーション手段を、自他の条件を考えて、選択したり、調整したりして、工夫することが大切である。そして、相手の反応をみながら、自分の意見を話し、相手に分かってもらう努力をしたり、 相手の言い分をじっくり聞いて、正しく理解することに努めたりする態度と技能を養う必要 がある。聴覚障害者は、そうした態度・技能の習得の上に、新しい人間関係の中で、周囲に 積極的に働きかけ、互いのコミュニケーションの障害を相互の努力によって解決していくよ う努めることが大切である。
児童・生徒が、自ら考え、自ら行動する力を育むことは、これからの聴覚障害教育にとっ て、極めて重要な課題である。これらの課題に対しては、日常のコミュニケーション活動を 活発にし、具体的な場面における言語習得及びその概念の形成を図ることが必要である。こ のため、幼児・児童・生徒の興味・関心を助長する方法の開発が望まれる。
聴覚に障害があると、聴覚的受容に制限があるため、情報と聴覚障害者の間に、モニタ一役が必要である。これまでの聴覚障害教育においても、幼児・児童・生徒が、周囲の情報を得るため、結果的に、モニター役の教員や保護者等に頼る傾向になりやすいということが指 摘されてきた。このことが習慣化すると、自ら考え、自らの判断に基づいて行動するという 主体的行為が損なわれやすいことが考えられる。その原因の一つは、これまでの幼児・児童・生徒のコミュニケーション手段としての口話法が、すべての幼児・児童・生徒にとって、自信をもって使用できる手段でなかったこと、聴覚障害者が聴こえる者に対して、常に不利 な立場に置かれたことなどが指摘されている。幼児・児童・生徒が自信をもって使用できるコミュニケーション手段を用いることが、主体性を育成する際の前提条件として大切である。
幼児・児童・生徒数の減少及び障害の多様化傾向に対応するため、これまで以上に、コミュニケーションの指導時において、個に応じた指導がなされなければならない。通常、個に応じるためには、個の障害の状態の正確な把握を必要としており、次いで、個に応じるため の指導上の工夫が重要である。さらには、評価の観点などの明確化が求められる。
例えば、聴覚口話法は、音声言語の習得において有効な方法であるが、使用するためには 聴力、家庭環境、知的発達など一定の条件が整っていなければならないことが明らかになっている。そのため、すべての幼児・児童・生徒や保護者に対して、聴覚中心の音声言語の習得を目標とし、一律に指導することには困難がある。今日、原則的に口話法だけで教育の展 開を図ったり、手指法だけで指導するというような、「〜だけ」という考え方はなじまない。
集団での指導では、集団を構成している個々に応じたコミュニケーション手段の併用が要である。保有する聴力のいかんを問わず、幼児・児童・生徒の共通のコミュニケーション の指導上の配慮として、文字、具体物、絵、写真の提示を工夫したり、手話等を使用したり することが必要である。
言葉が習得できれば、社会性や道徳性なども身に付くと安易に考えてはならない。言葉の 指導やコミュニケーション指導の過程で、相手の立場を考え、人の気持ちや思いを理解しな がら自分の意見を調整できる力を育成する意図的な指導が必要である。
社会性や道徳性などの育成に関して重要なことは、幼児・児童・生徒にとって、日常的に 家族や友達、学校の教員など周囲の人々との世間話的な会話が実現し、それによって、社会 的な情報を獲得したり、常識を身につけたりすることである。このような世間話を円滑に展 開するためには、口話や聴覚活用、手話等を併用することが有効である。またテレビなどのマスコミの情報や、様々な電気通信機器が利用できる環境を整備することも重要である。
ろう学校高等部の職業教育においても、コミュニケーション活動への配慮が必要である。職業に関する技術を習得するばかりでなく、職業教育におけるコミュニケーション活動を通じて、社交性やマナーなどの知識の獲得・拡充を図ることなどが大切である。
また、職場に入った後、自分にとって有効なコミュニケーションの方法を周囲に説明し、周囲の理解と協力を得るための行動がとれるように育てることが大切である。
人々とのかかわりの中で、コミュニケーション活動を行い、その活動範囲の広がりによって、徐々に人間としての必要な資質を身に付けていくことは大切なことである。
交流教育については、これまでも継続的に実践されてきたが、これまでの経験を踏まえ、さらに、今後の発展的な活動に期待したい。幼稚園・保育園・小学校・中学校などとの学校 間交流を活発にするとともに、特に、学校の所在地や幼児・児童・生徒の居住地などの地域 住民との交流を積極的に推進することも大切なことである。また、児童・生徒自身も、自分たちに何ができるかを考え、実践に移すことができるようにすべきである。例えば、駅の掃 除や公共の花壇の手入れ、老人ホームの訪問などの活動を展開することが必要である。これ らの活動を通した多くの人々とのコミュニケーション活動の経験が、社会のシステムを理解することに役立つとともに、地域社会の一員であることの自覚を促し、「共に生きていく」 社会をつくる意識や意欲を育て、児童・生徒の将来に大きく貢献することが期待される。
音声言語の習得・使用が困難であっても、簡単な手話によるコミュニケーションが可能で ある重複障害児は多い。幼児期からの手話を含めたコミュニケーションの指導によって、子どもの可能性を広げることができる。
これまでの重複障害教育において、幼児・児童・生徒の事例的な研究は多いが、必ずしも、その積み上げが十分とは言い難い状況にあったと考えられる。したがって、今後、これらの幼児・児童・生徒の障害の状態を見極めながら、この教育の指導法の改善と正しい評価の方 法を検討していくことが必要である。
これまでのろう学校における重複障害児のコミュニケーション指導は、優れた実績と経験の集積をもっている。日常的に、手話コミュニケーションが可能な環境が存在するため、と 思われる。今後とも、重複障害児の指導の充実を図ることが望まれる。
聴覚障害者自身が、自分の障害を正しく認識し、積極的に、力強く、この社会の中で誇り をもって生きようとする気持ちを培うことは、極めて重要なことである。その場合、「聴覚 障害者である自分」について、肯定的な自己像が描けるかどうかという「アイデンティティ」 の課題解決が欠かせない。
聴覚障害教育においては、幼児・児童・生徒が、聴覚に障害があっても、可能な限り、積 極的に社会生活を営もうとする気持ちや態度を育むことが必要である。このため、個々の幼 児・児童・生徒の最も得意とする面を伸ばしたり、人生に対する目的意識をもたせたりする 指導が大切である。このような指導を的確に効果的に進めるためには、基本的に、家庭生活 や学校生活における活発なコミュニケーション活動がベースになると考えられる。
都立ろう学校や難聴学級においては、必要に応じて、個々の幼児・児童・生徒の障害の状 態に即し、様々なコミュニケーション手段を適切に活用して、「障害の認識」の指導を充実させるよう工夫することが大切である。
また、成人聴覚障害者の協力を積極的に求め聴覚障害者の生き方を学んだり、すべての人々が生きやすい社会をつくるための取り組みについても学習する必要がある。
保護者との連携は、幼児・児童・生徒の減少及び障害の多様化領向に応じて、個々の保護 者との話し合いを通し、常時、綿密に行われることが望まれる。特に、コミュニケーション の指導や言葉の習得などに際しては、学校と家庭の相互の協力が不可欠である。
話し合う内容については、家庭や学校におけるコミュニケーション活動の状況やその方法 はもちろんのこと、悩みや疑問の解決など多岐にわたると考えられる。例えば、保護者が、 自分の子どもの望ましい障害の認識を願うならば、子どもの障害の認識以前に、保護者自身 が、自分の子どもの障害を正しく受容し、理解し、困難を乗り越えて共に生きていこうとす る気持ちをもつことが極めて重要である。また、幼児・児童・生徒が、家庭内において孤立 してしまうことがないように配慮しなければならない。そのためには、可能な限り、教員と 保護者による頻繁な話し合いを行い、「個別指導計画」を作成して、実施後には家庭からの 評価を加えながら、学校と家庭が理解し合って教育活動を行うことが必要である。
さらに、保護者のニ一ズに応じて、成人聴覚障害者との交流等を通して、聴覚障害の認識 や自立に関する事柄などについて理解できるような機会や場を提供することが望ましい。
身近に聴覚障害のある教員がいるということは、幼児・児童・生徒のみならず、聴覚障害 のない教員や保護者にとっても大きな意義をもつ。
例えば、幼児・児童・生徒や保護者にとって、聴覚障害のない教員とともに活躍している 聴覚障害のある教員の存在は、自分や我が子の将来の夢を大きくふくらませてくれる。また、幼児・児童・生徒のコミュニケーションのモデルにもなる。聴覚障害のある教員と日常的に 接することで、聴覚障害のない教員や保護者は、聴覚障害のある人に対する配慮の仕方を身 に付けることができる。さらに、聴覚障害のある教員の具体的な指導場面を見て、聴覚に障 害のある幼児・児童・生徒への望ましい接し方や指導方法の細かな配慮、手話の必要性や様 々なコミュニケーション手段をどのように使うと有効かなどについても学ぶことができる。
聴覚障害のある教員は、聴覚障害教育を受けた経験をもっている人が多い。それだけに、聴覚障害教育に対する課題意識が高い。ろう学校の活性化を図るためにも、聴覚障害のある 教員の果たす役割は大きいといえる。
現在、聴覚障害教育に対して情熱をもち、ろう学校の教員を志す聴覚障害のある大学生が 多い。しかし、障害のあるなしにかかわらず、教員採用の道は険しいものがある。ろう学校 における聴覚障害のある教員の果たす役割を考えたとき、彼らの一層の努力を期待したい。
都立ろう学校及び難聴学級が、地域に開かれているとともに、地域における聴覚障害に関 する教育相談センター的機能をもつことは、極めて大切なことである。このため、学校や学 級が、常に、聴覚障害教育の充実を図るとともに、保護者や地域の人々に対する教育相談な どの機能を向上させることが必要である。特に、難聴学級においては、通常の学級に在籍し、 難聴学級に通級しておらず、何らサポートを受けていない児童・生徒に対し、必要に応じて、 学校生活におけるコミュニケーション活動等についての悩みなどの相談に乗ったりすること は重要である。また、通常の学級担任に対して、専門的な立場から、助言を行ったりするこ となども必要である。教育相談センターとしての機能は、具体的な幅広い活動を通して、そ れぞれの地域における聴覚障害に関する正しい理解を図るなどの役割を巣たしていくことが 期待される。
0歳から2歳までの乳幼児に対する教育は、国の定める制度としては存在しない。しかし、聴覚障害教育では、この部分がすべての教育の基本となる。すなわち、一般に子どもは、この時期に周りとのコミュニケーションにより、自然に言語を獲得するが、聴覚障害児の場合は、それができないために、様々な問題が出現し、それがろう教育全般に波及し ている。したがって、この時期の教育の改善に努めなければ、その後の教育に大きな影響を及ぼすことになる。現在、この年齢の乳幼児の教育に対しては、教育相談という形で、幼稚部の教員が担当しているが、一日も早く一番重要なこの部分の制度の確立が望まれる。
この時期の教育は、保護者に対するものが主となる。そこで、保護者の精神的な安定を図りながら、聴覚障害乳児の具体的な育て方だけでなく、障害についての偏りのない見方を啓発していく必要がある。そのために保護者と教員が子どもの実態について十分に話し合い、共通に理解して指導に当たることが大切である。
幼児・児童・生徒の障害の多様化により、個々の幼児・児童・生徒に適したコミュニケーション手段を選択することが重要である。以下、発達段階に応じた改善策を述べる。
@ 乳幼児教育
乳幼児にとって、進んでコミュニケーションをしたいという欲求を満たすことがなければ、言語を身に付けることはできない。言語を身に付けることができるかどうかは、その乳幼児の知的発達及び情緒の発達等に大きな影響を与える。
重度の聴覚障害のある乳幼児の場合は、手話など視覚的言語が必要となる場合が多い。その場合、手話など視覚的なコミュニケーション手段を身に付けるための保護者(兄弟など、その乳幼児とコミュニケーションを行う可能性のある者を含む)に対する支援の計画が必要となる。
A 幼稚部
幼椎部においては、集団生活が始まり、これまでの家族とのコミュニケーションから同年齢の集団でのコミュニケーションとなる。
家族とのコミュニケーションは、その幼児に最も適したコミュニケーション手段を使用すればよいが、集団においては、幼児同士の共通のコミュニケーション手段が必要となる。幼児の聴覚障害の程度はそれぞれ異なるため、聴覚活用や発音・発語の指導の他、手話を取り入れることも考えられる。手話を用いる場合は、幼児の生活に即した手話を選択して使用したり、巧みな手話表現のモデルとなる教員の存在なども重要となろう。
B 小学部
教科学習は、その内容を児童が理解し、自ら考える楽しさを味わう場である。そのため、児童によく分かる授業を展開することが大切である。ただし、単語や文の暗記に重点が置かれ過ぎ、教科内容の学習が不十分になるということがないよう注意する必要がある。
この時期は、日本語を適切に表現し正確に理解する能力を育成し、伝え合う力を高めるとともに、思考力や想像力及び言語感覚を養い、日本語に対する関心を深める時期である。
そこで、教員は、児童の実態に応じて、複数のコミュニケーション手段を併用し、分かる授業を推進して日本語の習得を目指した指導を進めなければならない。聴覚活用を促す日本語の指導ばかりではなく、既に、児童が身に付けている手話を通して日本語を指導するという方法もあれば、日本語と対応した手話を日常的に使うことにより、コミュニケーションの中で日本語の使用に習熟するという方法もある。同時に、文字に親しませるということも大切である。板書や掲示物の工夫、読書などとともに、パソコンを用いた通信や手紙、ファックスなど、文字によるコミュニケーションを活用することも重視したい。また、相手や場面によって、コミュニケーション手段を選択する態度・技能を養うことも重要である。
C 中学部
小学部の指導の改善点に加え、中学部では次の点について改善する。
この時期に入ると、障害認識が進み、社会の中での自分の存在を意識できるようになる。また、家族からの自立も始まる。一人の人間として、社会で生きていくには、どうすればよいかを考え始める。そのため、仲間とのコミュニケーションが重要となる。さらに、成人聴覚障害者との交流などが、大切な意味をもつようになる。このような状況に対応できるコミュニケーション手段を身に付ける指導が必要である。
D 高等部
社会に出る前の準備期であり、社会に出てからの様々なコミュニケーション環境に適応できる力を養う時期である。自分のコミュニケーション能力を客観的に評価し、様々な状況で、どのような方法を用いれば、コミュニケーションが成立するかを認識するとともに、それをきちんと周りに説明したり、相手の協力を求めたりできるようになることを目指す指導の計画と実践の工夫が望まれる。
コミュニケーション能力は、単に、話が通じることだけではなく、自信をもって、自分の意見を話すことができるようになるとともに、相手の話をよく聞き、相手の立場や気持ちを受け入れる心の幅をもつことが大切となる。そのためには、自分の得意なコミュニケーション手段をもつとともに、自分の生き方に自信をもつことができるように系統的な指導を実施する。また、手話通訳の利用や各種文字情報など、日常的な情報取得の姿勢と技能を養う指導を計画的に行うことも重要である。
E 重複障害教育
音声言語の習得が困難であっても、簡単な手話によるコミュニケーションが可能である重複障害のある幼児・児童・生徒は多い。ろう学校は、重複障害のある幼児・児童・生徒にとって、最適の教育環境を整えることを自覚し、聴覚障害の教育における成果を重複障害のある幼児・児童・生徒の教育に生かしていくことが大切である。また、知的障害教育の指導方法を積極的に取り入れて指導していくことも重要である。
難聴学級は、在籍学級での学習や生活がスムーズに行われるように支援することが主たる目的である。したがって、難聴学級の教員は、在籍学級の担任と積極的に協力し合い在籍学級の環境の改善に取り組む必要がある。在籍学級の担任や児童・生徒に聴覚障害についての理解・啓発を行うとともに、授業場面において、難聴の児童・生徒が、よりスムーズに情報を摂取するにはどうすればよいかを工夫、提案することが要求される。
また、最近は、重度の聴覚障害のある児童・生徒が、難聴学級に通うようになっている。難聴学級の教員は、そうした児童・生徒とのスムーズなコミュニケーションを図るためにも、聴覚活用や発音の指導、手話等のコミュニケーション手段に習熟し、保護者や本人と十分に話し合いながら指導を進める必要がある。
小学校、中学校の学習指導要領に交流教育が位置付けられ、相互に理解するための学習時間を設ける学校が増えてきている。中には、手話クラブのような課外活動を行っている学校もある。また、新設される「総合的な学習の時間」で「福祉」に取り組む学校では、手話を学んだり、ろう学校や難聴学級の児童・生徒と交流したりする活動を計画することも予想される。こうした活動に対して、ろう学校や難聴学級の教員は、聴覚に障害のある児童・生徒とのコミュニケーションの取り方等、聴覚障害に対する理解を促す情報提供をしたり、交流活動の計画を交流希望校の担当者とともに立案したりするなどの積極的な姿勢が求められる。
交流教育を積極的に推進することで、聴覚障害児・者に対する偏見をなくし、正しい理解を図ることができる。学校教育の中で交流教育が普及していけば、ろう学校の幼児・児童・生徒を取り巻く社会の聴覚障害への理解が深まり、本人の自信が培われ、積極性が伸張される。また、豊かなコミュニケーション環境が用意されることになる。こうした環境は、温かい社会を築いていく基本になると思われる。
@ 幼児・児童・生徒の「伝えたい」「分かり合いたい」という欲求を指導の基本とすることが大切である。「心が動いたら言葉で表出され、言葉によって心が動く」関係を理解し、聴覚障害のある幼児・児童・生徒のニーズに応じた指導を展開する。
A コミュニケーション手段の選択に当たっては、一人一人の幼児・児童・生徒の障害の状態及びコミュニケーション手段の機能を考慮し、それぞれの手段を併用して指導する。
B 幅広いコミュニケーション手段に対応できる力を養い、個々の幼児・児童・生徒のコミュニケーション活動に対する意欲を助長する。
C 聴覚に障害のある幼児・児童・生徒の家庭生活における情報、知識等の獲得に際しては、家族同士の会話も聴覚障害児が理解できるような環境を設定するよう保護者や家族の理解を図る。このことは、聴覚に障害のある幼児・児童・生徒の家庭内での孤立化を避けることにもつながり、情緒の安定のためにも効果的である。
D 聴覚障害のない保護者に対して、聴覚障害者が、どのような場合に、情報保障を必要とするかを、できるだけ早期に説明し、子どものニ一ズに合わせたコミュニケーション手段をとることの大切さを理解してもらうように努める。その際、必要に応じて、聴覚障害者の保護者や成人聴覚障害者がかかわるようにする。
E 保護者が手話習得を希望する場合は、ろう学校の教員や難聴学級の教員が、連絡を密にして、保護者が、できるだけ早期に学習できるよう情報提供や場の確保等に努める。
@ 乳幼児教育
ア、専門家や保護者と協力し、個別指導プログラムや集団活動の指導計画を作成して指導する。
イ、専門性をもったスタッフと連携を図って指導する。
ウ、保護者が、我が子の障害について理解、受容し、将来に向けて見通しがもてるように支援する。
エ、保護者に対して、コミュニケーション手段には様々な方法や考え方があることにつ いて情報提供し、コミュニケーション手段の選択が偏らないように配慮する。
A 幼稚部
ア、幼児の聴覚活用能力、理解力、言語力、コミュニケーション意欲等の実態を客観的検査等により把握する。
イ、教員のコミュニケーション指導等の考え方を保護者に十分に説明して理解を得、信頼関係を確立する。
ウ、個別指導計画を作成し、幼児の心理や生理及び発達段階に即したコミュニケーション指導の方法を探る。
エ、子どもとのコミュニケーションや聴覚障害についての認識など、個々の保護者の悩みに応じて具体的な支援に努める。
オ、遊びを中心とした指導の中で幼児同士のコミュニケーション活動の活発化を図る。
カ、集団活動におけるコミュニケーション手段は、幼児の実態に応じて複数の手段を併用する。
B 小学部
ア、小学部の教育に当たっては、幼稚部の教育との関連を重視する。
イ、児童が活用できるコミュニケーション手段を生かし、人とかかわる楽しさを味わう体験をできるだけ多くして、様々なコミュニケーション手段に対応できる素地を養う。
ウ、客観的な検査等における実態把握をもとに個別指導計画を作成し、その児童の障害の状態に応じたコミュニケーション手段で日本語獲得についての指導を行う。
エ、読み書きの学習に重点を置き、コミュニケーション手段の拡充を図る。
オ、テレビの字幕、文字通信など、文字を活用した情報入力を図るとともに、インターネットなどを活用したコミュニケーション活動の活発化に努める。
C 中学部
ア、中学部の教育に当たっては、小学部の教育との連携を、より一層深める。
イ、いろいろな人と進んで話し合う態度を培い、様々な情報を獲得し、その情報を選択する態度や技能を養う。
ウ、成人聴覚障害者等を講師として招聘するなどして、障害の認識、受容や自己の将来について考える指導を充実する。
エ、コミュニケーションの方法を自分で選択、工夫し、聴こえる人とのコミュニケーション活動を積極的に行う態度と技能を養う。
オ、個々の生徒のコミュニケーションの状況についての情報を個別指導計画に記載し、指導の系統性、継続性を図る。
D 高等部
ア、個別指導計画に基づき、その生徒の最も得意なコミュニケーション方法についての理解と自覚を促す。
イ、相手に対して、自分の障害について説明したり、相手に協力を求めたりすることができるような態度を養う。
ウ、周囲とのコミュニケーションを積極的に行う態度を培い、社会常識等を育成する。
エ、相手に合わせてコミュニケーション手段を選択できるような複数の手段を身に付ける。
オ、確実なコミュニケーション手段として、日本語の読み書きの力を育成する。そのために、生徒の興味・関心に即した教材・教具等(インターネットも含む)を提供し、文字に親しむ機会を多くする。
E 重複障害学級
重複障害のある幼児・児童・生徒の指導に当たっては、幼児・児童・生徒の微細なサインを見落とすことなく、意思伝達の手段と解するとともに、きめ細かな指導を実施することにより、幼児・児童・生徒のわずかな変容も見逃さないように心掛ける。
ア、聴力測定やその他必要な検査等の実施により、個々の児童・生徒の障害の状態を把握し、個別指導計画に基づいた指導を展開する。
イ、場面や相手によって、最適なコミュニケーション手段を選択できるような資質を培う。
ウ、個々の児童・生徒の得意とするコミュニケーション手段を活用した指導を展開する。
エ、コミュニケーション上の心理的不安の解消のため、情報保障はもちろんのこと、必要に応じて適切なカウンセリングを実施する。
オ、中途失聴者や聴覚障害者の生活やコミュニケーション状況についての十分な知識をもつ。
カ、一斉指導場面におけるコミュニケーション活動に際しては、聴覚的受容に制限があるため、児童・生徒に最適なコミュニケーションを活用して情報保障を図る。
キ、ケース会議等の話し合いを行い、学級運営や指導内容・方法等にかかわる事項について協議するとともに、聴覚障害教育におけるコミュニケーションに関する指導法等の情報も交換し、互いの聴覚障害教育への知識と理解を深める。
ク、聴覚障害が重度の児童・生徒の増加に対し、必要に応じて、手話、指文字等を選択肢の一つとして活用する。
ケ、通常の学級の教員や児童・生徒に対して、聴覚障害のある児童・生徒の理解の推進を図る。そのために、聴覚障害のある児童・生徒の聴こえ方や発音の特性について理解を促すとともに、特別活動等における手話クラブや手話コーラスの活動等についての情報提供を行う。
@ 初任者研修(他校種からの異動者を含む。以下、初任者等という)
ア、聴覚障害教育の歴史的推移と聴覚口話法や手指法、キュード・スピーチ等の指導法の変遷及びそれぞれの機能や特徴を理解するとともに、手話に対する理解の変化や情報保障制度などの社会的現状を知る。このことを踏まえ、個々の障害に応じた特別な指導の方法を用いて、教育実践ができるような研修の機会を多くする。
イ、聴覚障害教育に関する機器や補聴器等に対する理解を図り、その扱い方に習熟する。
ウ、可能な限り、他のろう学校や難聴学級、養護学校の教育、成人聴覚障害者の活動等にも関心をもち、学校外の研修の機会を確保する。
エ、初任者等の指導場面における悩みなどについて、常時、相談に応えられる体制や環境を整える。
A 専門研修
ア、多様なコミュニケーション手段の機能を明確化し、それぞれの長所や短所について理解する。
イ、医学や心理学、乳幼児の発達や保育に関する研修を専門家と連携して進める。
ウ、個々の幼児・児童・生徒の障害の状態に応じたコミュニケーション手段の選択及び集団場面におけるコミュニケーション指導の在り方を探究する。
エ、保育園、幼稚園、小学校、中学校、高等学校の授業参観を行い、指導技術について学ぶ。
オ、海外の聴覚障害教育や成人聴覚障害者の新しい視点からの諸々の取り組みなどについて学ぶ機会を設ける。
カ、幼児・児童・生徒の実態に応じた教育課程の編成、年間指導計画及び個別指導計画の作成を推進し、意図的、計画的な指導の推進に努める。
キ、聴覚的受容を主としたコミュニケーション発達に関する知見を得る。
ク、障害の状態を把握するための諸検査の方法や教育機器等の使用の方法に関する理解を深め、客観的な評価に基づく指導の推進に努める。
ケ、聴覚障害のある幼児・児童・生徒のカウンセリングに関する研修を行い、心理的な不安や問題行動等に対応した適切な指導を行う。
コ、ケース会議等において、個々の幼児・児童・生徒の具体的なコミュニケーションに関する資科に基づき、保護者や本人の要望を踏まえ、指導方針を立てたり、必要に応じて指導の微調整を行ったりし、幼児・児童・生徒理解に資する。
サ、定期的に、聴覚活用や発音等の研修会、手話実技研修会を開催し、次のことを実施する。
○ 聴覚学習について理解し、指導法を身に付ける。
○ 聴力測定法について、実技研修を通して習熟する。
○ 補聴器のフィッティングについて理解し、必要に応じて、行うことができるようにする。
○ 伝統的な発音指導法である筋肉運動感覚法について学び、発音誘導のための音韻別指導や、リズム、アクセント等の語調指導及び読話指導等について習熟する。
○ 発音・発語訓練機の操作に慣れ、幼児・児童・生徒の主体的な発音・発語習得の学習に役立てる。
○ 発音明瞭度検査等、第三者による検査を実施し、障害の状態に応じた適切な評価を行う。
○ 必要に応じて、講師として聴覚障害者を招聘し、手話実技の充実と聴覚障害者の社会生活における実態を理解する。また医師、言語聴覚士等の専門家を講師として聴覚活用や発音指導等の技術を習得する。
○ 聴覚障害者団体等との交流を図り、互いの理解を深めるとともに、手話に関して、実際に役立つ技術を習得する。
○ 手話実技研修会においては、手話表現技術の習得と同時に、幼児・児童・生徒の手話表現の特徴についても研究し、それぞれの手話表現を読み取れるようにする。
シ、研究授業を基にした授業研究会を定期的に開催する。
○ 個別指導計画に基づいた学習指導案を作成し、外部の講師を招聘した研究授業を通して、具体的に個に応じた指導の研修を行う。
○ 聴覚障害児の立場に立った「楽しく、分かる授業」を創造する。
○ 子どもたちが自ら調べ、考え、話し合い、判断する学習過程をできるだけ多く授業の中に取り入れる。
課題の中でも多くの面で、研究・開発の必要性を指摘した。しかし、どの組織がどのような研究を行うかについては明らかにされていない。そこで、まずは、今ある研究組織を活用し、聴覚障害教育の改善・充実に向けた研究を推進することが重要である。
教育委員会は、「東京都聴覚障害教育推進構想」に基づき、0歳から2歳までの早期乳幼 児指導の実践、個別指導計画を取り入れた各学部における教育の充実、コミュニケーション 指導の改善と充実等、年次計画で研究委員会を設置することが望まれる。また校内研修改善校に各ろう学校を指定し、実践的な研究を推進することも必要である。
現在、東京都ろう教育研究会では、学部別、教科別等の研究を進めているが、これらの研 究についても、東京都聴覚障害教育推進構想案に即した内容の研究を充実させていく必要が ある。また、東京都公立学校難聴・言語障害教育研究協議会では、多様化した児童・生徒の 指導内容・方法について、より一層研究を深めることが大切である。これとともに、両者が 連携を図り、定期的に合同の研究会を開催する等、新たな発想による研究会の充実が望まれ る。
東京都では平成11年度から「学校運営連絡協議会」の試行を開始し、保護者、地域住民、 研究者、関係機関職員等の外部委員からの評価を受けた学校経営を推進している。ろう学校 では、平成12年度は4校が試行校となるが、校内研究においても、例えば、視覚教材を活 用した分かる授業、コミュニケーション手段を併用した授業、調べ学習や話し合い活動を取 り入れた授業等の授業を公開して、アンケート調査を行い、外部からの評価を真摯に受け止 めながら研究を進めていくことが重要である。
将来的には、ろう学校、難聴学級が地域の聴覚障害教育のセンターとして、聴覚障害者、 聴覚障害児をもつ保護者、研究者、関係機関職員などと連携を図った研究を進めていくこと が望まれる。こうしたセンター化構想も想定した研究開発が重要である。
【 委 員 】
渡邉 研 学識経験者(短期大学名誉教授)
菅原 廣一 学識経験者(国立特殊教育総合研究所聴覚言語障害教育研究部長)
津田 望 学識経験者(スピーチ・セラピスト)
三宅 良 学識経験者(大学講師)
越智 大輔 聴覚障害者団体代表
長谷川 洋 聴覚障害者団体代表
濱崎久美子 都立足立ろう学校長 平成10年度
都立江東ろう学校長 平成11年度
日下 雄二 都立大塚ろう学校教諭
井上 吉三 都立杉並ろう学校教諭
入佐さと子 都立立川ろう学校教諭
黒谷 節子 東京都公立学校難聴・言語障害教育研究協議会会長
(目黒区立東根小学校長)平成10年度
山本満里子 東京都公立学校難聴・言語障害教育研究協議会会長
(墨田区立言問小学校長)平成11年度
山中ともえ 武蔵野市立第一中学校教諭(難聴学級)
清水ひろみ 東京都ろう学校PTA代表
太田やよい 東京都難聴児を持つ親の会代表
【事務局】
草野 弘明 教育庁指導部心身障害教育指導課長
井上 竜二 教育庁指導部主任指導主事(心身障害教育担当) 平成10年度
杉野 学 教育庁指導部主任指導主事(心身障害教育担当) 平成11年度
宮下 安彦 教育庁学務部主任指導主事(就学相談担当)
田中 誠 教育庁指導部心身障害教育指導課指導主事
太田 裕子 教育庁指導部心身障害教育指導課指導主事 平成10年度
信方 壽幸 教育庁指導部心身障害教育指導課指導主事 平成11年度
桑山 一也 教育庁学務部義務教育心身障害教育課指導主事
トータルコミュニケーション研究会