読売新聞の記事

9月14日(火)付 読売新聞多摩版

『ろう者のリーダー期待されながら……』

ひき逃げ事故死 立川の泉さん

遺志継ぐ会 結成

差別・偏見解消へ

 聴覚や言葉が不自由なろう者で三日、ひき逃げ事故で亡くなった立川市砂川町五、手話講師、泉宜秀さん(25)の恩師、友人など約百五十人が、「泉宜秀君を支援する会」を結成した。テレビの手話講座に出るなど「ろう文化」の担い手として嘱望された故人の遺志を生かし、社会の偏見や差別をなくすのが狙い。会ではまず、ひき逃げを巡る公正な審査を立川署に求め、二十二日には中野区内で集会を開く。

 泉さんは三日未明、立川市柏町の市道で友人と帰宅途中、近くの飲食店員窪上智行容疑者(20)の乗用車に道路左わきではねられ、全身打撲で死亡した。立川署では、飲酒で注意力が散漫となった窪上容疑者が前方をよく確かめなかったとみている。
 同署では事故後、友人から当時の状況を聞き、事故概要を遺族に説明したが、事故原因については、審査中を理由に詳しく話さなかった。泉さんの父親の等さん(61)と母親の千年さん(56)は「耳の聞こえる人でも、猛スピードの車はよけきれなかったはず。ろう者だから巻き込まれたわけでない」と涙声で語る。
 「支援する会」では、事故原因についての情報開示を立川署に求め、社会全体の偏見や差別をなくす活動をしていくという。
 立川署の毛利徹也副署長は「耳が聞こえないというのは、事故原因ではない」と被害者に過失責任はないとしたうえで、「事故原因については審査中なのでお話しできない部分もあるが、求めがあれば、できる範囲内で答えたい」と語る。
 一方、会の代表でNHK教育テレビ「みんなの手話」講師のろう者、米内山明宏さん(47)(国立市北)は「ろう者は、泣き寝入りすることも多かった。ライトの光など、視覚で判断するといった独自の行動様式を持つことを知ってほしい」と訴える。
 泉さんは大阪府和泉市出身。府立堺ろう学校高等部三年の時、ろう者の家族の集いに参加、米内山さんらと出会い、健常者に合わせて生きるのではなく、手話文化の担い手としてろう者の自立を守ろうと決めた。
 昨年四月には、店員と客が手話でやり取りするろう者向けの喫茶店「デフトピア」を中野区内に開いて店長を務め、全国初の試みとして脚光を浴びた。昨夏まで半年間は、「みんなの手話」に出演した。
 「ろう者社会のリーダーになると思ったのに残念」(米内山さん)と、早すぎる死を惜しむ声は強い。

読売新聞社の許可を得て転載しています。
更新日時 : 2006/08/24 14:24:22 +0900

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